Tol2の転移の研究:最小必須cis領域の解析とDrosophila中での転移

浦崎明宏、Ghislaine Morvan、上田龍、川上浩一

国立遺伝学研究所

 Tol2は、hATファミリーに属するメダカ由来のトランスポゾンである。ゼブラフィシュにおいてTol2を用いた遺伝子トラップ法、エンハンサートラップ法を開発してきた。しかし、Tol2の転移に必要なcis領域は明らかになっていなかった。そこで、我々は様々な長さのTol2末端配列を持つトランスポゾンを構築し、その転移活性を調べた。その結果、Tol2の転移にはTol2の5’側の200 bpと3’側の150 bpが必要であることが明らかになった。さらに、Tol2のサブターミナル領域に5塩基の繰り返し配列が33コピー存在することを見いだした。これらの繰り返し配列に変異を入れると、切り出し活性が低下した。これらは、コンパクトなTol2ベクターの作成が可能であること、サブターミナル領域の繰り返し配列はTol2の転移に重要な役割をしていることを示している。
 これまで、Tol2は脊椎動物細胞中において高頻度で転移することを明らかにしてきた。しかし、無脊椎動物において転移するか否かは不明であった。Tol2が無脊椎動物細胞中で切り出されるか否かを調べるために、トランスポゾンドナープラスミドと転移酵素mRNAをDrosophilaの胚に微量注入した。微量注入した胚からDNAを回収し、PCRによりTol2の切り出し活性を調べた。転移酵素mRNAの存在下でTol2は切り出されることが分かった。さらに、Tol2が転移するか否かを調べるために、レポーター遺伝子を持つTol2トランスポゾンを構築した。このトランスポゾンベクターと転移酵素mRNAをDrosophilaの胚に微量注入した。微量注入した胚の次世代から、ゲノム中にトランスポゾンが組み込まれたハエを高頻度で見いだした。Drosophilaにおいて広く使われているP elementは、遺伝子の5’側に挿入しやすいという傾向があるが、Tol2ではそのような傾向は見られなかった。よって、Tol2P elementとは異なる特性をもつ新しい遺伝子解析ツールとして利用できる。また、メダカのTol2Drosophila中で転移したことから、Tol2の転移にはトランスポゼース以外の宿主因子を必要としないと考えられる。このことは、Tol2が他の無脊椎動物における遺伝子タギングのツールとしての可能性を持っていることを示している。