Tol2 転移システムを用いたゼブラフィッシュの母性遺伝子トラップ

小谷友也、川上浩一
(遺伝研・初期発生)

Tomoya Kotani, Koichi Kawakami
(National institute of genetics)

 我々の研究室では脊椎動物で順遺伝学的解析が可能なゼブラフィッシュにおいて、メダカから単離されたトランスポゾン(Tol2 因子)を用いた遺伝子トラップ法を確立してきた。プロモーターが無く、スプライスアクセプターを上流に持つ GFP 遺伝子をゼブラフィッシュゲノム上にランダムに挿入し、現在までに約50種類の時期・組織特異的に GFP を発現するゼブラフィッシュが得られている。我々はそれらの約4分の1において GFP が受精卵で発現していることを見い出した。卵生の動物では卵母細胞に蓄積された母性因子が初期発生過程で重要な役割を果たしている。受精卵での GFP の発現は、トラップされた遺伝子が母性因子として卵形成過程で転写され卵内に蓄積されていることを示唆する。実際に母性発現する遺伝子がトラップされているならば、GFP の発現を指標に新規の母性遺伝子を効率的にスクリーニングすることが可能となる。さらにホモ2倍体の雌においてトラップされた遺伝子機能を破壊することが出来た場合、新規母性因子の機能を明らかにすることが出来る。我々はまず、受精卵で発現する GFP 遺伝子が実際に母性発現する遺伝子をトラップしているのか、これらトラップされた遺伝子の転写を阻害可能であるのかを解析した。
 遺伝子トラップフィッシュ系統 SAG20 では、GFP が受精卵で発現し、かつ接合体性の発現が受精後 12 時間から脊椎で観察される。GFP 遺伝子はゲノム DNA 配列から予想された新規の遺伝子をトラップしていた。この遺伝子は C 末に Coiled coil 領域を持つが、既知の遺伝子と相同性はない。in situ 解析の結果から、この新規の遺伝子は実際に母性発現し、かつ脊椎で発現していることが明らかとなった。ホモ挿入2倍体の雌を同定し卵巣における遺伝子の転写を RT-PCR で解析した結果、トラップされた遺伝子の転写量は検出限界以下に阻害されていた。このホモ2倍体雌から生まれた稚魚では、細胞増殖に異常が観察された。その他の遺伝子トラップフィッシュ系統においても、実際に母性発現している遺伝子がトラップされていることを明らかにしつつある。以上のことから、我々の遺伝子トラップ法は、新規母性因子の同定及びその機能解析を行うための有力な方法であることが示された。